ありのままの海を味わう。

海のミネラルバランスを
大切にした海塩

天草塩の会

松本 明生さん

羊角湾の入り口に位置する須賀無田(すがむた)海岸。空と水面が茜色に染まる夕刻の風景は、息をのむほどの美しさです。「天草塩の会」の工房は、そんな風景を望む浜にあります。

たどり着いたのは、 サンゴが息づく海

のどかな緑の丘陵に白く輝く「大江教会」。数百年もの間、祈りの文化を育んできたこの地に移り住み、塩づくりをつづける人がいます。「天草塩の会」の松本明生さんです。寄せては返す波の音が響く海辺。はるか向こうには岩礁・大ヶ瀬小ヶ瀬のシルエットが映ります。ゴツゴツと雄々しい磯場は、干潮時になるとあちこちに潮だまりができ、ヤドカリやウニ、小さな魚の姿も。波に洗われて丸くなった小石の中には、サンゴのかけらも多く見られます。手つかずの自然が残るこの海で、松本さんが塩づくりを始めたのは、1990年代のこと。徳島県出身の松本さんは、若い頃から原点思考を繰り返すなか、「生きることは食べること。食べものが体をつくる」という考えに至り、37歳で海塩づくりを学びました。

「昔ながらの手法でつくる海の塩は、美しい海があればこそできるもの。日本各地の小さな海岸や浜に、小さな塩屋が存在し、それぞれに塩づくりをできるのが理想です」。製塩に適した浜を探し歩き、2年ほどしてようやくたどり着いたのが、須賀無田海岸でした。 「この海にはサンゴがいる。それこそが、水がきれいな証拠です」。透明度が高く、塩分濃度と温度が程よい浅瀬の海。そのすべての条件が揃ってはじめて、サンゴは生息することができます。時間をかけて地域住民の理解を得た松本さんは早速、この地で塩づくりをはじめました。

須賀無田海岸からは、東シナ海に沈む夕陽を眺められる

天日塩と煎ごう塩。急ぎすぎない、塩の滋味

海岸の傍ら、山のくぼみにひっそりと佇む小屋が、松本さんの仕事場です。海風が吹きつける平地には、汲み上げた海水を散水循環し、濃縮させていくための櫓(ろ)が備えられています。ここで風と太陽の力で塩分濃度を高めたかん水を、松本さんはふた通りの方法で結晶にしていきます。ひとつは、「結晶ハウス」での天日干し、もうひとつが薪火の力で炊き上げる釜炊き塩です。お邪魔したのはちょうど、塩づくりの最終工程へとさしかかる炊き上げの日でした。
「頃合いを見計らい、薪を絶やさずくべるのがひと仕事。合間で碁の手を考えながら、ひたすら結晶ができるのを待つんです。炊き上げの日はだいたい18時間くらいは火の番が続くから、おかげで碁がどんどん上手くなっていくんです」。笑いながらふと見やった先には、年季の入った碁盤がありました。
釜炊きは沸騰するたびに粉々になるからさらっと細やかな粒になりやすい。対して、ゆっくりと蒸発していく天日干しは大きな粒になる。冬場は完成までに1〜2か月かかることもありますが、よりまろやかで旨みや甘みを感じる仕上がりになります。でき上がった塩は熱いうちに、にがりとともに木樽に入れ、2~3日寝かせるのが松本さん流です。
「ミネラルを含むにがりに漬け込むことで、海のミネラルバランスに近い塩に仕上げていくんです。工程を急ぎすぎないほうが、いいものができる。ありのままの海をまるごと味わう塩だから、私はこの塩を“ありのままの海を味わう、海塩”と呼んでいるんです」。 まるで何かを確かめるように、ぽつりぽつりと紡がれる松本さんの言葉は穏やかなのに力強く、「小さな海」の味わいそのものです。

松本さんの流下式かん水タワー

釜炊き用の薪割りもひと仕事

天草塩の会

〒863-2801 天草市天草町大江1448 TEL 0969-42-5477

【採水場所】天草灘に面した須賀無田海岸 【工程】天日干し、釜炊き+樽熟成 【おすすめ食材&料理】刺身、野菜、おむすび、梅干し、味噌など

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